少し前に川上真澄さんというソプラノ歌手のブログエントリーが話題になりました。
その時の記事は消えてしまったようなのですが書き直した記事があるので事情を知らない方はこちらをご覧ください。
⇒ 演奏に代金は払いたくないのか|ソプラノ川上真澄の音楽とバラがいっぱい、時々子育てブログへようこそ!
プロとアマの大きな違いは「仕事に対する報酬を得るかどうか」です。
プロに対して無償で仕事を頼むというのはプロをプロと見てないということで、ラーメン屋に行って「あなたラーメン作るの得意だし材料もいっぱいあるんだからタダで食べさせてよ」と言ってるようなもの。ラーメン屋でそんなこと言う人はいないのに、なぜソプラノ歌手には言うのでしょう。
たぶん、カラダ一つでできる仕事だと思ってるんじゃないでしょうかね。
ラーメンなら最低でも食材のコストはかかるわけだから、それをタダでとは言いにくい。
でも歌手はパッと来てサラッと歌って以上終わり、コスト一切ナシ、って認識じゃないですかね。
でも、川上さんもおっしゃってるように、プロがプロとしてのクオリティの仕事をするのには見えないところで様々なコストがかかっています。伴奏者やスタジオ費用のように実際にお金が動くものばかりではなく、日々の練習や勉強もしなくてはいけません。スポーツ選手もカラダ一つでできる仕事ですが、試合の実働時間は数時間なのに年俸数億もらう選手もいますよね。それはその仕事をこなすための日々の努力もあるし持って生まれた才能もある。スポーツ選手の場合は見てる方にもそういう認識がある程度できているのに対して、歌手の裏での努力やコストというのは一般的にあまり見えてないから軽々しく無料でなんてことが言えるのかもしれません。
そんなにタダで歌ってほしいならアナタが歌えばいいじゃん!
そう言うときっと「いやいや、私にそんな才能ありません。私は素人ですから。」と返ってくるかもしれません。
アナタにできないことをプロに頼む。それ、ビジネスの基本ですよね?
そこを川上さんは「自分は無料でいい」と引き受けたにもかかわらず、付帯するコストまで払えないというのはやっぱりラーメン屋さんでタダで食わせろって言ってるのと同じです。
で、ソプラノ歌手とデザイン業ではまた事情は違うにしても、私らの業界でも似たような話はたまにあります。
独立前に勤めていた会社でよく聞いたのは「デザイン費がもらえない」という話。
当時はよく看板制作の仕事があって私はそのデザインを作ってたりしたのですが、営業サイドが看板本体の制作や設置工事と合わせて「デザイン代」と見積もりに入れると「それは看板作るのに当然含まれるものなんだから別で費用がかかるのはおかしい」と言われるんだそうです。
いや、お客様が看板のデザインを自分で考えて印刷用のデータを支給してくれるならそこはお金いらないですよ、もちろん。でも、デザインを考えてレイアウト起こして印刷用のデータにするまでの仕事を私はやってるわけです。お客さんにしてみれば私の仕事はボランティアレベルって認識なんでしょうかね。じゃあデザイン費はいらないからアナタがボランティアでデザイン考えてくださいよって言っても「それはムリ」ってなるでしょう?アナタができないことを代わりにやるのだからその対価はお支払いいただかなくてはビジネスが成り立ちません。
・・・・ということを説明して納得してもらうのは面倒で拗れる原因にもなるので、見積もりにはデザイン費という項目は入れず総額でデザイン費も含めた金額に調整することが多いんですけどね。
独立してからはこの業界にしてはウチはそういうケースが少ない方じゃないかと思いますが、大なり小なり似たような話はないわけじゃありません。
こういうコトが起きるのはやっぱりソプラノ歌手と同じようにデザイン業もカラダ一つでできる仕事だと思われてるからじゃないでしょうかねぇ。歌手ならスポーツ選手ほど見た目が激しくはないにしてもあれも肉体労働だけど、グラフィックデザインに至ってはカラダどころか頭一つでできる簡単なデスクワークのようなものと思われているのかもしれません。
パッと画が浮かんでパパッとPCでデザイン起こしてサッとデータをメールで送信。デザイン考えるのが仕事なんだからこんなの簡単でしょ?ってなもん。
そう思ってる方には声を大にして言いたい。
だったら自分でやりなよ!!
いや、言わないですけどね(笑)
例えばホームページなんてもんは安いものでもいいからソフトさえあればアマチュアでも簡単に作れます。ヘタすりゃフリーのソフトでもできるくらいです。お問合せ頂く中にも「ホームページビルダーで自分で作った」「子どもに作ってもらった」「知り合いにそういうの詳しいのがいたから」って声は少なくありません。
それで充分ならそれでもいいんです。わざわざお金払ってプロに頼む必要ありません。
じゃあ、それでホームページとしての本来の役割を果たせるかどうかは別の話。
ビジネスにおいてホームページを作る目的はもちろんそこから利益を出すこと。商品を買ってもらったり、お問合せをいただいたり、お店に来てもらったり。そのためにはホームページにアクセスを集めなきゃいけないし、売れるための仕組みも必要。ただ「ホームページがある」だけでは意味がなくて、我々プロのWebデザイナーはそれをできるようにするために仕事をしているわけです。もちろんデザインだってそんなにポンポンと浮かんでくるわけじゃないし、制作環境にしたってPCやらソフトやら素材集やら色々揃えるものも多いし、日々進化するこの業界で生きていくためには学ばなきゃいけいないこと、調べなきゃいけないこと、覚えなきゃいけないこと、いっぱいあるし、それらをすることで実際の仕事にフィードバックできたりノウハウの蓄積とかができるわけです。
他のどんな職種・業種でも同じですよね?
そこをパッとデザイン考えてササッデータ作ってサーバーにアップして以上、簡単な作業でボロ儲け~なんて風に思われるととっても心外。
そう思われてるなら声を大にして言いたい。
だったら自分でやりなよ!!
いや、言わないですけどっ(笑)
まぁ実際のところデザインやホームページ等は何がどうしてそういうものが作られているかとか、価格にしてもそれが適正なものなのかとか、一般の方にはなかなかわかりにくいし伝わりにくいし不透明な部分が多いのは事実。そういう意味ではソプラノ歌手も同じなのかもしれません。
それをわかってくれと言っても限界があるでしょうし、ムリにわかってくれとも私は思わないんですが、デザイナーにしてもソプラノ歌手にしても、それを仕事として対価を得ている人がいて、対価を得ているということはそこにそれだけの価値があって、いくら原材料費や仕入れがない仕事だったとしても、その対価をタダにしろっていうのは自分の仕事の対価を無価値と言われてるようなかなり失礼な言葉だということはわかっていただきたいです。
昔からよく言うじゃない。
タダより高いものはないって。
はじめまして。突然のコメント失礼いたします。ソプラノ歌手の川上真澄です。
私の記事を好意的に取り上げてくださって、ありがとうございました。当たり前のことを記事にしたつもりですが世の中には無料でやらせて当然と思う方もいらっしゃるようで、そのことで驚くような心無いコメントを頂きましたので、このように同じ意見の方がいらっしゃる、声を挙げてくださったというのは、とても嬉しく励みになりました。ありがとうございます。デザインの世界も大変とは思いますが、ご活躍をお祈り申し上げます。