前の記事に引き続き、山本節子さんから学んだ「公害防止協定」について。
まず公害防止協定とはどういうものか。
環境影響評価情報支援ネットワークの環境アセスメント用語集によれば
地方公共団体または住民と公害発生企業との間に、公害防止を目的に締結される協定。これは、法令の規制基準を補完し、地域に応じた公害防止の目標値の設定、具体的な公害対策の明示等を内容とし、法律や条例の規定と並ぶ有力な公害防止対策の手段として広く用いられている。
法的性格については、紳士協定説、民事契約説などがあり定説がない。
とあります。
新潟市が試験焼却を行う予定の新田清掃センター・亀田清掃センターを管理する新潟市は施設周辺の自治会と公害防止協定を締結しており、これはもちろん周辺地域で公害が起きないようにするためのものです。公害防止協定については以前の市民主催説明会でも度々このワードが出てきていて、私としても気になっていましたが、その中身がなかなかわかりにくかったりするので、説明会で配布された「新田地区の公害防止協定について」という資料を元に問題点を考えてみたいと思います(引用失礼します)。
新田地区の公害防止協定について
新潟市は、平成24年3月8日、新田自治会、新田東自治会、笠木自治会との間で新田清掃センターの操業に関する公害防止協定書を締結しています。
【目的】
センター周辺地区の良好な環境の保全を図り、センターの操業に伴い公害が発生することを未然に防止するとともに、地域の生活環境を保全し、市と自治会との理解を深め、協調・信頼関係を強化するために必要な事項を定める。(第1条)
【基本理念】
市は、公害防止について、社会的責務を有することを強く自覚し、積極的に地域住民と連携を保ち、誠意を持ってこの協定を履行するものとする。(第2条)
【公害発生時等の措置】
市はセンターの操業に起因する公害が発生し、また発生する恐れのあるときは、操業短縮、操業停止その他必要な措置を講じ、その原因発生の排除に努めるものとする。(第4条)
市はセンター周辺地域の生活環境に影響を及ぼし、また及ぼす恐れのある事故等が発生した場合には、直ちに生活環境保全上の支障の除去、または発生若しくは拡大防止のための必要な措置を講ずるとともに、当該事故等の状況及び講じた措置の内容を自治会に報告するものとする。(第4条2)
【被害補償】
市は公害が発生し、地域住民に被害を与えた場合は、直ちに公害防止対策を講じるとともに、誠意を持って補償するものとする。(第5条)
【協議会】
自治会はセンターの操業により生活環境の保全上の支障が生じ、又は生じる恐れがあると判断したときは、市に協議会の開催を請求することができる。(第8条2)
この協定に定めのない事項が生じた場合及びこの協定に定める事項に疑義が生じた場合においては、その都度市と自治会が協議して定めるものとする。(第9条)
ここから捕捉として
【憲法第92条】
地方公共団体の組織及び運営に関する事項は地方自治の本旨に基いて法律でこれを定める。
【新潟県環境基本条例 第5条(市町村の責務)】
市町村は、基本理念にのっとり、環境の保全に関し、その区域の自然的社会的条件に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する。
難しい言葉・言い回しですが、内容は概ねわかるかと思います。
「目的」については言わずもがなです。過去、高度成長期には全国各地で公害が発生し、新潟でも水銀汚染による新潟水俣病があったことは新潟県民なら知らない人はいませんね。そういう公害を二度と起こさないために住民と結ばれるのが公害防止協定です。
「基本理念」では「積極的に地域住民と連携を保ち、誠意を持ってこの協定を履行する」とあります。新田清掃センター周辺の3自治会は市に対して試験焼却の中止を求めていますが、篠田市長はその声には耳も貸さずに一方的に試験焼却の実施を発表しました。これでは住民との連携も誠意もなく、協定の基本理念を根底から覆す暴挙と言われても仕方がないでしょう。
「公害発生時等の措置」にある「操業に起因する公害が発生し、また発生する恐れのあるときは、操業短縮、操業停止その他必要な措置を講じ、その原因発生の排除に努めるものとする」という点では、新田清掃センターは現時点で基準値超の鉛・水銀を含む焼却灰を抱えており、公害が発生している可能性がありますが、これについて原因の特定はできておらず、もちろん原因発生の排除もできない状態です。協定に基けば新田はとっくに操業停止になっているはずなのですが操業は通常通り行われており、第4条2にある「当該事故等の状況及び講じた措置の内容を自治会に報告」も不十分なままです。その新田清掃センターで試験焼却を行うのは物事を進める順序がまったく間違っているのではないでしょうか。
「被害補償」では「市は(中略)誠意を持って補償する」とありますが、瓦礫焼却に関して被害が起きた際の責任の所在を篠田市長に聞いても「国が補償する」の一点張りで誠意のカケラもありません。これについては山本さんも「国は責任なんて取るつもりもなく、取れるはずもない、市も責任を逃れて最終的には住民の泣き寝入りになる」と指摘されていました。福島から避難されている方の多くが国からも東電からも満足な補償を受けられていない現状を見れば、それと同じことが瓦礫焼却でも起こるということは容易に想像できることです。例え国からの要請であっても、それを受け、実施を判断したのが市長や市議会であれば市が責任を負うのは協定の有無に係わらず当然のことではないでしょうか。
「協議会」では「この協定に定めのない事項が生じた場合(中略)、その都度市と自治会が協議して定めるものとする」とありますが、協定には「県外の廃棄物」「災害廃棄物」「放射性物質」については何の規定もなく、規定にないものを持ち込む場合には自治会と協議することになっているにも係わらず、協議もされず協議結果もないまま一方的に試験焼却が行われようとしています。本来であれば試験焼却実施を発表する前に自治会と協議をし、その結果を受けた上で試験焼却実施を発表するべきです。
このように、地域住民の健康や環境を守るべき公害防止協定が結ばれているのに、篠田市長はこれらを無視して試験焼却を強行しようとしています。これでは協定を結んでいる意味がまったくありません。今月行われた町づくりトークでもこの協定を軽視した発言をしていたという報告もありました。
では、この公害防止協定に法的拘束力はあるのか?という点について。
これは記事冒頭の環境アセスメント用語集でも「法的性格については、紳士協定説、民事契約説などがあり定説がない」とあるように見解が分かれるところでもあるようですが、大方は「民事契約説」として受け止められることが多いようです。そして資料捕捉にもあるように、日本国憲法第92条、新潟県環境基本条例でも定めがありますので、新潟市は公害防止協定を順守する義務があります。既に基準値超の水銀・鉛を出した新田・亀田の両センターは公害防止協定に基づいて、自治会が求めれば操業停止しなければならず、更に言えば住民の求めがある前に水銀・鉛が出た時点で自主的に操業を停止し原因究明をする責任があります。
山本さんもこれについてはハッキリと法的拘束力があると断言しており、事実、山本さんは神奈川県(市町村名は聞き損じました。すみません)での瓦礫焼却反対運動のバックアップをされて、この公害防止協定によって瓦礫焼却を中止させた実績があります。
自治会によって協定の記述に多少の違いはあっても中身はほぼ同義。神奈川県で止められたということは、新潟でも、その他全国の瓦礫を受け入れている地域、受け入れ予定の地域でも同様に止められるということです。
前の記事でも書いたように、危険なのは放射性物質だけではありません。水銀や鉛以外にも有害な物質は数多くゴミに含まれています。恐らく多くの焼却施設で新田や亀田のような問題が起きているでしょう。何か起きてからでは遅いのです。過去の公害でそれは学んだはず。それを防ぐのが公害防止協定です。
ぜひ、ご自身や家族・友人を守るために、今こそ公害防止協定を使って危険な焼却を止めてください